真菰(まこも)とは、日本をはじめ、中国の東部から東南アジアの広くに分布してる、イネ科マコモ属の多年草です。
池や沼の岸辺、河川の縁など、水深の浅い場所を好んで生育し、
お米の稲(いね)と同じく水田でも育ち、2m以上の草丈にまで成長します。
真菰(まこも)の歴史はたいへん古く、
一億年位前の化石が発見されたほか、縄文時代中期の遺跡からも発掘さています。
自然と寄り添って暮らしていた古代の人々は、真菰(まこも)を『聖なる植物(ホーリープラント)』として扱い、
心身の環境を整えるために、食物や薬として、装飾品や民芸品として、宗教儀式の道具として、
「衣・食・住」のすべてに取り入れ、大切にしていたと伝えられています。
紀元前には、お釈迦様が病人を治療する際に、真菰(まこも)で編んだ筵(むしろ)で
寝床を作り、治療をしていたという有名なエピソードがあります。
筵(むしろ)は、菰(こも)とも呼ばれていて、
今日では、藁(わら)やイグサで編まれたものが一般的ですが、
元々は、真菰(まこも)で編まれていたために、「まことのこも」という意味で、
真菰(まこも)と命名されたという説もあります。
日本のお盆で、用いられる「盆ござ」や、ナスの牛やキュウリの馬も、
真菰(まこも)で作られていたのだそうです。
そして、真菰(まこも)は、神事にとっても欠かせない植物です。
全国に八万社とも、十万社あるともいわれる神社の祭事には、必ずといってもよいほど、
真菰(まこも)が使われていて、三重の伊勢神宮、島根の出雲大社をはじめ、東京の神田明神、
千葉の香取神社、埼玉の氷川神社、大分の宇佐神宮など、全国の数多くの神社に、神事として受け継がれています。
出雲大社といえば、神楽殿の「大注連(しめ)縄」が有名ですが、
残念ながらこちらは、真菰(まこも)で作られたものではなく、本殿、瑞垣(みずがき)内の摂社には、
現在でも、真菰(まこも)の「注連(しめ)縄」が使われています。
また、毎年6月1日に執り行われる『涼殿祭(すみどのさい)』は、俗に『真菰の神事』と呼ばれています。
この日、出雲大社の裏にそびえる八雲山から、山の神(女性神)が降りてきます。
大社の裏にある出雲の森で、宮司は神霊を迎えます。
神弊を捧げた宮司は、御手洗井へと向かいますが、そこに至る道には「立て砂」がまかれ、
その上に真菰(まこも)が敷かれます。
元来、真菰(まこも)は、『出雲大社の神霊が宿る田の神』とみなされ、
神弊に宿った女神に踏まれることで、稲が豊作になると信じられていたのだそうです。
山の神は、農民にとっては、田の神と一体。
春、山の神は、里に降りて田の神となります。
御手洗井では、水の神と一緒になって、豊作を祈念するのでしょう・・・
神事が終わると、参拝者は競ってこの真菰(まこも)をもらい受け、
神棚に飾ったりお風呂に入れて、無病息災・五穀豊穣を祈ります。
水辺に生える真菰(まこも)は、その命の源である水を浄化します。
河川や、田んぼなどに真菰(まこも)を植えると、水の汚染を浄化してくれることは、昔から知られていて、
近年では、琵琶湖や諏訪湖、伊豆沼などで、環境グループや行政による真菰(まこも)の植え込みが行われています。
生活排水や余分な肥料が流れ込み、富栄養化した水を真菰(まこも)は綺麗にします。
水だけではなく、お茶などにして飲むと、体内の汚れを洗い流し、血液を浄化してくれます。
また、体内を浄化するのと同じように、空気も浄化してゆきます。
真菰(まこも)の葉を寝室に置くだけで、ぐっすりと安眠でき、また消臭作用にも優れるため、
枕や壁紙などにも利用されています。
空気を浄化するということは、場を浄化することにも繋がります。
物理的な空気だけではなく、その場の雰囲気を浄めてゆく力があるから、神事や仏事に使われ続けてきたのでしょう。
心の浄化作用です。
水と血液、空気と場、真菰(まこも)は、地球環境と人類を浄化する植物として着目されています。
昔は、日本中、どこの水辺にも生えていたそうですが、今日では、河川や沼地、水田の用水路などが、
護岸工事により、コンクリートへと変わってしまったため、ほとんどその姿を消しつつあります。
また、真菰(まこも)には、汚れや余分な窒素などを取り込み、分解する力があるので、
除草剤などの農薬や、化学肥料や硝酸態窒素などが全草に取り込まれてしまいます。
自然栽培のように無肥料、無農薬で作られた、 安全性の高いものをお勧めいたします。
参考文献
田中 文夫(2016)『 出雲國まこも風土記 』里山笑学校 今井出版.
里山の自然に抱かれたGreen Spoon Rice fieldでは、真菰(まこも)を、
*無肥料*無農薬*自然栽培の棚田で、復活させました。